1978年にイギリスのエドワード博士が世界初の体外受精を成功させてから、40年以上が過ぎました。
現在では40万人以上の赤ちゃんが体外受精により誕生しており、体外受精は不妊治療の中でもオーソドックスなメニューになりつつあります。
しかし、そんな体外受精をなんどやっても妊娠しないと不安になりますよね。
どのくらいで妊娠するのが一般的なんでしょうか。
体外受精の妊娠確率は約20~40%と言われています。
体外受精のステップ毎の妊娠率
体外受精までのステップには、採卵、採精、受精、胚の成長、肺移植、着床、妊娠とあります。
それぞれの成功確率を調べてみました。
採卵できる確率は85%
体外受精を行うためには卵子を採らなくてはなりません。
そのために卵子を育てるのですが、低刺激法や高刺激法などの排卵誘発を使う方法と、自然周期での採卵があります。
こちらの成田産婦人科のホームページに年齢別の受精卵獲得率があります。
これによれば、1回の採卵で卵子を1つ以上得られる確率は・・・
39歳以下 | 94% |
40~42歳 | 85.2% |
43歳以上 | 78.2% |
それぞれの年齢の母数がわかりませんが、この3件の平均値は85.8%
裏を返せば14.2%の人は1回の採卵で1つも卵子が採れていないことになります。
採精できる確率は99%
採精については男性のマスターベーションで行います。
ほぼ100%採ることはできますが、無精子症など、精子を採ることができない場合があります。
こちらの日本Men’s Health医学会のホームページによれば日本人男性の約1%が無精子症と言われています。
そのため、1%の人は採精できないということになります。
受精する確率は75%
体外受精では、採卵した精液は調整して良好精子のみにします。
そして、集めた精子を採卵で採れた卵子を入れたシャーレの中に加えて、受精させます。
この時の受精率は70~80%
ちなみに、1つの精子を直接卵子に注入する顕微授精でも受精率は70~80%とあまり変わりません。
ここでは、受精確率は間を取って75%としておきましょう。
胚の成長、胚が分割する確率は33%
精子と卵子が合わさって10~20時間後、受精が確認され、受精卵の中央に前核と言われる核が2つできます。
その後、2日目には受精卵が4分割になり、3日目には8分割になります。
分割の仕方が均一で、フラグメンテーション(細胞の破片)が少なくきれいなものほどグレードが高い受精卵です。
この3日目の初期胚で子宮内に戻す場合もあります。
その後、4日目には20~40まで分割し桑実胚(そうじつはい)となります。
5日目には胚の中の細胞が独自の機能を持ち始め、胚の中央は空洞になります(胞胚腔)
この時で、細胞はすでに100前後といわれています。
これが胚盤胞
胚盤胞の方が移植後の妊娠率も高く、そのまま移植する場合と一度凍結してから移植する場合があります。
受精した卵子と精子が胚盤胞まで育つ確率ですが、こちらの越田クリニックさんのホームページに記載があります。
胚盤胞まで育つ確率は33%
つまり、3分の1ということです。
胚移植して着床する確率は30%
肺移植をして着床する確率ですが、年齢によってかなりの差があります。
杉山産婦人科さんのホームページによると・・・
~30歳 | 40% |
31~33歳 | 35~40% |
34~36歳 | 30~35% |
37~38歳 | 20~30% |
39~40歳 | 15~20% |
41~42歳 | 5~10% |
43歳~ | ~5% |
20代であれば40%、40代以降では10%以下というデータのようです。
ここは確率にかなりばらつきがありますね。
今回は、30代半ばを想定して30%としておきます。
無事に妊娠する確率は84%
着床してから流産などをせずに、無事に妊娠する確率です。
先ほどの杉山産婦人科さんのホームページに着床率と同じようにデータがあります。
~30歳 | 87% |
31~33歳 | 85% |
34~36歳 | 84% |
37~38歳 | 82% |
39~40歳 | 75% |
41~42歳 | 70% |
43歳~ | 60% |
着床率ほど年齢の差は少ないようです。
着床率と同じく30代半ばを想定して84%としましょう。
体外受精の妊娠率は
以上のデータを基に体外受精で妊娠する確率を計算してみました。
採卵できる確率:85%
採精できる確率:99%
受精する確率 :75%
ここまでで、約63%となります。
体外受精を行えば、10組中6組の夫婦が受精卵を得られることになります。
受精卵が胚盤胞まで育つ確率はぐっと減って33%
63%×33%でここまでで約20%です。
体外受精を行った、10組のカップルの内2組だけが胚盤胞を得られることになります。
移植後に着床する確率は年齢により差がありますが、例えば35歳では30%です。
これに、流産などをせずに無事に妊娠する確率、35歳では84%ですが、これを加味して計算してみましょう。
20%×30%×84%で合計約5%
体外受精で子供を授かる確率は約5%ということになります。
厳しい数字ですね。
しかし、これは採卵数1つの場合です。
仮に一度の採卵で10個の卵子が採れるのであれば、どれか1つは高確率で受精卵になり、複数の受精卵があれば胚盤胞に育つ確率も上がります。
確実に胚盤胞を得られれば、あとは着床率30%と妊娠率80%で、約24%の確率で子供を授かれることになります。
体外受精の妊娠確率を上げるためにできること
体外受精の妊娠率がなんとなくわかったところで、どうすれば成功率を上げられるのでしょうか。
こちらも各ステップごとに見ていきましょう。
採卵数を増やす
まずは、移植するために胚盤胞まで育てる必要があります。
そのためには、数を増やすのは一つの手
実際に、高刺激法(ロングプロトコール)などで排卵を誘発して、採れる卵子の数を増やす治療をすることが多いです。
採卵数が6以上になると、妊娠確率が高いというデータもあるので、安定的に6前後の採卵ができるといいでしょう。
卵子の質を上げる
卵子の数を増やすと同時に質を向上させるのも妊娠確率を上げる方法
採卵前にクロミッドやレトロゾールを服用し、卵子を成長させます。
卵子の質については年齢の影響も受けやすく、普段の食生活などの影響が出やすいので、逆に改善しやすい部分でもあります。
精子の質を上げる
卵子の質と同時に精子の質も上げることで、受精率、その後の胚の成長や妊娠する確率のアップにつながります。
仮に精子が断片化していたりすると、胚の成長がうまくいかない事例が多いです。
精子の質も年齢や普段の生活の影響を受けるので、男性も注意しましょう。
タイムラプス培養など培養法にこだわる
胚を培養して胚盤胞まで育てる時に、胚を顕微鏡で観察しながら行います。
顕微鏡での観察は胚をインキュベーター(培養器)から取り出して行うのですが、培養器から取り出すということは、胚にストレスを与えてしまい、胚の成長が止まってしまう可能性が高まります。
タイムラプス培養では、胚をインキュベーターに入れたまま観察することができ、安定した培養環境で胚を育てられます。
また、連続して胚の成長を記録できるため、なかなか胚盤胞に育たない人の原因を追究する手がかりにもなります。
また、培養液によって相性があったりもするようですので、培養の仕方にこだわるのも妊娠率アップにつながります。
胚移植の方法にこだわる
胚移植の方法は複数のあり、「2段階移植」や「SEET移植」は妊娠率が高いと言われています。
2段階移植
2段階移植をするには、複数の受精卵があることが前提になります。
まず、採卵後2日目に4~8分割の受精卵を1つ移植します。
そして、残りの受精卵はそのまま培養を続け、5日目に胚盤胞となったところで胚盤胞を1つ移植します。
このように、胚移植を2段階に分けて行うので、2段階移植と呼ばれており、妊娠率が飛躍的に高くなります。
しかし、移植胚が2つになるので、双胎妊娠の可能性も高くなるので注意が必要です。
SEET法
通常通り胚を培養し、胚盤胞になった時点で一旦凍結します。
この時に、受精卵を培養するのに用いた受精卵から放出された物質(受精卵からのエキス)を含んだ培養液も別で凍結しておきます。
その後、移植を行う周期に、凍結しておいた受精卵からのエキスを含んだ培養液を子宮内に一度注入します。
この培養液の成分から子宮は刺激を受けて、着床させるための準備を開始するそうです。
その後、胚盤胞を移植することで、着床率が向上
なんとこのSEET法を活用した場合、着床確率は92%まで上がったそうです。
凍結胚移植
採卵した周期に移植する場合、採卵により子宮が弱っていて、着床する能力が低下していることが多いです。
一旦胚は凍結し、次の周期は内膜を厚くすることに専念して移植すると着床率は高いです。
アシステッドハッチング
胚は透明帯というゼリー状の物質に取り囲まれており、着床するためにはこの透明帯から脱出することが必要になります。
卵の孵化のようなもので、ハッチングというのは孵化という意味
この孵化を手助けするために、透明帯を薄くしたり、穴をあけたりするのをアシステッドハッチングと言います。
近年では、安全性の高いレーザー・アシステッド・ハッチングが一般的です。
まとめ
私も体外受精を10回以上やっていますが、採卵数が1つの場合は妊娠まで行く確率はわずか5%
かなり厳しい数字ですが、それだけ簡単に結果は出ないということです。
地道にできることからやっていきたいと思います。
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