体外受精をやっていると、凍結胚移植をすることはありますよね?
それから、精子バンクや女性の晩婚化への対策としての卵子凍結などはよく知られるようになってきました。
しかし、卵巣自体を凍結する、「卵巣凍結」という言葉はあまり聞かないのではないでしょうか。
卵巣凍結とは がん治療の一環で使われる
卵巣凍結とは、がんの治療などで生殖機能が低下してしまう可能性がある場合に、子供をつくる能力を残す目的で卵子あるいは卵巣の組織を凍結し保存する方法です。
2004年9月にベルギーで卵巣凍結を使った、世界で初めての妊娠・出産例が報告され、欧米諸国では悪性腫瘍患者の卵巣凍結保存が多くの施設で実施されています。
事例も増えてきているものの、リスクもあり、まだまだ研究段階の技術です。
卵巣凍結の方法
まずは手術で卵巣の一部を切り出します。
手術は腹腔鏡あるいは開腹手術で行われ、場合によっては卵巣を片側丸々取り出すこともあるそうです。
その後、凍結
マイナス196度の液体窒素の中に卵巣を入れて凍結保存します。
卵巣凍結によるメリット
卵巣凍結は、がん治療患者のために生まれた手法です。
がん患者が子供を持つことができる可能性を高めるのが一番のメリット
がん治療による卵巣機能低下を防ぐ
現在の医学はがんの治療もかなり進んできました。
以前は、不治の病だった癌も完治するまでになり、一度がんになった人でも元気に暮らしている人が大勢います。
しかし、がんの治療で使用する抗がん剤や放射線治療は、精子や卵子・卵巣に大きな影響を及ぼしてしまいます。
結果、ほぼすべてのがん患者が不妊症に
女性のがんとして代表的な乳がんの治療でさえ、卵巣機能を失う場合があるのです。
こういった事情を踏まえ、がんの治療に専念するために、事前に卵子や卵巣を凍結しておき、治療終了後に凍結卵巣や凍結卵子を使って体外受精を行い子供を授かることが可能になります。
実際に凍結卵巣を用いて妊娠した事例も
先ほどの世界で最初のベルギーの事例
今回,がん治療の前に,卵巣組織を取り出し,凍結保存した女性が,がん治療後に,ふたたび卵巣の移植手術を受け,卵巣機能が回復,さらに,自然妊娠にいたったことが,ヨーロッパ生殖医療学会(ESHRE: European Society of Human Reproduction and Embryology )で報告されました。
この症例は,7年前,抗がん剤治療を受ける前に卵巣組織の一部を摘出し凍結保存,その後,悪性リンパ腫の治療を受けました.抗がん剤治療後,凍結保存していた卵巣組織をもとの卵巣に移植したところ4ヵ月後に月経が再開し,自然妊娠しました。
この技術が確立すれば,がん治療などを受ける女性にとって有用となると考えられます。
また,若い頃に一部分,凍結保存しおけば,閉経後の女性が,卵巣組織を再び移植することで,妊娠することも可能となるため,注目されています。
7年前の凍結した卵巣を移植し月経が再開
なんと自然妊娠しているんです。
卵巣凍結で高齢妊娠のリスク回避
がん治療以外にも高齢妊娠のリスク回避もメリット
晩婚化や女性の社会進出に伴い、子供を産む年齢も高くなっています。
しかし、女性の体は35歳以降は妊娠しずらくなり、ダウン症などのリスクも上がります。
あらかじめ卵子を凍結しておいたり、卵巣を凍結しておくことでこういったリスクに対応できます。
卵巣凍結では閉経後であっても妊娠することも可能になります。
夫が不妊治療をしている場合の備え
男性不妊が一般的に知られるようになってきました。
男性側に問題があり、乏精子症や無精子症などで夫が不妊治療をしている場合もあるでしょう。
そんな時、男性の治療をただ待っていてはどんどん時間が経ってしまいます。
先ほども説明したように35歳以降は妊娠する確率は減っていきます。
せっかくの夫の不妊治療を無駄にしないためにも、事前に卵子や卵巣を凍結しておく、という選択肢があるわけです。
卵巣凍結によるデメリット
夢のような不妊治療技術である卵巣凍結ですが、問題点もあります。
成功率が低い
卵巣の摘出、凍結はほぼ問題なくできるそうですが、いざ移植したときにしっかりと生着するかどうかは難しく、使えない場合もあるそうです。
また、仮に生着しても移植した卵巣組織は最大でも3年程度しか機能しないと言われています。
卵子凍結にしても、体外受精の凍結胚と違って、かなり難しく凍結する際に死滅してしまうことも多くあるそうです。
がん治療での凍結卵巣は移植によってがん再発のリスクが
がん治療で卵巣凍結を行っていた場合、卵巣の細胞にがん細胞が紛れ込んでいた場合は移植によりがんが再発する可能性があります。
これは非常に怖いですね。
また、子宮頸がんなどでは卵巣凍結はもともとできません。
卵巣凍結まとめ
卵巣凍結はまだまだ不妊治療クリニックでも取り扱いが無いところがほとんどですが、徐々に取り扱い医院も増えています。
精子バンクや凍結胚移植などと違い、あまり聞かない言葉ですが、成功すれば閉経後にも子供ができる技術です。
がん患者への治療としても有効で、がん治療で子供を諦めていた多くの人を救うことができます。
今後、症例も増えてくると思いますし、注目していきたいと思います。
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